野菜の有機無農薬栽培


2012.6.3
日曜は畑です


野菜の有機無農薬栽培は、自然と調和の取れた生育環境を生み出すことで、丈夫で病害虫に強い野菜、安全で美味しい野菜作りをめざす栽培法です。有機無農薬栽培は、有機肥料による栽培と農薬を使わない栽培を合わせた栽培方法で、通常一体として行われますが、ここでは有機栽培の部と無農薬栽培の部に分けて説明します。

I.有機栽培

1.      有機栽培とは

有機栽培は、化学合成で作られた肥料ではなく、微生物による発酵で栄養成分を野菜に提供する農法です。有機物の分解によって窒素、リン酸、カリという植物の三大栄養素ができ、それを植物が吸収します。発酵による栄養生成は、人間を始め多くの生物が共通してその体内に持っている食物分解・栄養吸収メカニズムです。
化学肥料は、この三大栄養素などを水に溶ける形で化学的に合成し提供する肥料で、現代の農業においては、農薬とともに必要不可欠と思われがちです。しかしながら、化学肥料や農薬が日本の農業で本格的に使われるようになったのは第二次世界大戦以降であり、それ以前は有機無農薬栽培がごく普通の農法として行われていました。

化成肥料だけを使う農業は、いわば人工の栄養剤しか食べさせない子育てに等しい、と言っていいと思います。そのように考えるとその不自然さが理解できるでしょう。


2.   化成肥料の弊害

a.      弊害その1

化学肥料では肥料が良く効くため、メタボ野菜ができやすくなります。メタボ野菜は次のような特徴を持っています。ただし、これは化成肥料特有の問題というわけではありません。有機肥料でもやり過ぎれば似たようなことが起こることには注意が必要です。

i.        躯体はおおきいが味が薄いものが多い。

ii.      すぐ傷む(腐りやすい)

iii.     有害な硝酸塩を多く含むになりやすい。これは窒素肥料過多で生じます。

iv.     軟弱に育つため病害虫に弱く、結果として農薬を多用することになります。


b.      弊害その2

良く用いられる化成肥料は、例えば硫化アンモニウム(硫安)、塩化カリ、硝酸アンモニウム(硝安)など、硫酸、塩酸、硝酸をベースに作られているものがたくさんあります。このような化学肥料を施肥することは、栄養供給と同時に硝酸や硫酸を畑に撒いているのと同じですので、施肥によって土の強酸性化が起こります。土壌が酸性になると、以下のような弊害が生じます。

i.        野菜の生育に適した酸度に中和するために石灰を多用する必要が生じます。その結果、土が固くなり、野菜の根が呼吸できない土壌を作ることになります。

ii.      弱酸性から中性の環境に棲む土中の有益微生物が棲めなくなります。次に述べるように、有益微生物は有機肥料を分解して植物が吸収できる栄養成分を生成するので、土壌の強酸性化によって有機肥料の効きが悪くなります。


3.      有機肥料の意義

有機肥料は有機物ですが、有機物はそのままでは植物に吸収されません。有機肥料は、微生物に分解されることで、植物が吸収可能な物質にまで変化する肥料です。
日本人の食には、味噌、醤油、納豆、漬物など、微生物の力を利用した食材、いわゆる発酵食品が沢山あります。西洋のチーズ、ヨーグルトも同じです。発酵食品は、元の材料が微生物の力で変化し消化吸収しやすい栄養素を沢山含んでいます。それと同時に、発酵食品を食べることで腸内微生物の働きを活性化し、食物を消化吸収する力を強めます。フランス料理のデザートにチーズが出てくるのは、実はこの消化吸収を助けることを狙ったものです。
有機肥料を野菜に施肥することは、野菜にとっての発酵食品を提供する、と考えれば良いでしょう。

4.   有機肥料施肥の基本
a.      微生物の棲みやすい環境を作る
i.        微生物のエサとなる有機物を供給する
堆肥、腐葉土などのほか、土をおおう(マルチング)材料として刈り草やワラを用います。これらは、時間の経過とともに土中微生物によって分解され、微生物の栄養源になります。
ii.      微生物の棲み家となる土壌改良材を供給する
たくさんの小さな穴があいている炭や籾殻燻炭(もみがらくんたん)は微生物の棲み家になります。また腐葉土は、微生物の餌であると同時に棲み家でもあります。
iii.    微生物の活動に必要な環境を保つ。
マルチングや雑草をはやすことは土壌の水分発散防止に役立ちます。また太陽の光をさえぎり、有害な紫外線から微生物を守ります。これらは、微生物の住みやすい環境となります。

b.      適正な酸度を維持する
それぞれの野菜には、生育に適した酸度があり、一般的には弱酸性から中性が理想です。化学肥料を使うと土壌が強酸性化しますので、作付けのたびに石灰をまく必要があることは、上で述べた通りです。有機肥料に切り替えた直後以外は、その必要はありません。ただし有機肥料であっても、乳酸菌の活動が活発な肥料の場合は、土が酸性化しますので、まったく必要ないとは言えません。有機栽培では、即効性の石灰は控え、効果が長く少しずつ効く牡蠣殻粉などの有機石灰資材を利用するほうがいいでしょう。

c.       未熟肥料は厳禁
鶏糞、豚糞、牛糞などの家畜糞を直接施肥することは避けなければなりません。未発酵の油粕やぬか、未熟腐葉土も好ましくありません。未熟肥料を土中に施肥すると、その発酵に伴ってアンモニアや炭酸ガスなど根にとって有害なガスが発生し、
i.        苗の根を痛める
ii.      ガスが有害な虫を集める
iii.    発酵プロセスで地中の栄養素が奪われる
などの弊害をもたらします。市販堆肥や腐葉土は未熟なものが多いので注意が必要です。
 「苗植えは、完熟堆肥などの元肥を施用後、土になじむまで1週間以上あけてから行う」と教科書に書かれているのは、土中での発酵は一段落するのを待つという意味です。有機肥料の追肥は、厚く土をかけずにガスの抜けやすい表面に近いところで発酵が進むようにします。
 また植物性の有機肥料でも、未熟肥料は病害虫を寄せるなどの弊害があります。特に、ぬかはヨトウムシを呼び寄せると言われています。

a.   3種類の発酵肥料
i.        落葉堆肥、腐葉土
広葉樹の落葉とぬか、水を混ぜて半年以上かけて作る腐葉土は保水性を高める土質改良材です。完熟した腐葉土は腐植と呼ばれ、微生物のエサや棲み家になります。
腐葉土の材料のほかに鶏糞や油粕、生ゴミなどの窒素成分を多く含む材料を加えて十分発酵させたものが堆肥です。元肥として、また追肥やマルチング用に利用します。
原料である落葉には、地中深くから吸収した微量元素が蓄えられているので、微量元素供給源としても働きます。
堆肥は、90cm角くらいの底のない木枠に、炭素成分の多い落葉(厚さ30cmくらい)やわらと、窒素成分の多い鶏糞、油粕、生ゴミ、ぬかなど(落葉の1/10程度)を交互に、水をかけながら踏み込んで積み上げていきます。雨にぬれないようにカバーをして10日ほど置くと、微生物の活動が活発になり温度が上がってきます。2週間程で50度以上になるので、木枠をはずして場所を隣に移し、上の方の材料を下に、外の材料を中に、というように積み上げ場所を入れ替えます。これを「切り返し」といいます。温度の上がり方が弱いようなら、ぬかなどの発酵促進材か水分が足りないので、追加します。また匂いを嗅いでみてドブ臭がするようなら腐敗の方向に進んでいますので、水や窒素成分が多すぎです。わらや落葉などの炭素成分とぬかを追加してよく混ぜて発酵菌の活性化を促します。再び50度以上に上がったら切り返します。これを何回か繰り返すと、温度は下がってきます。冬場で半年、夏場なら3カ月程度で出来上がります。切り返しは重労働なのでやらない、という場合は、半年から1年置くとよいでしょう。
  堆肥材料として剪定枝を砕いた物が自治体から提供されていますが、木質の主成分であるセルロースは発酵で分解するまで5年以上かかると言われており、また分解する過程でたくさんの窒素成分を必要とします。完熟していない剪定屑堆肥を使うと、土中の窒素肥料を大量に消費して「窒素飢餓状態」を生み出します。肥料をあげているはずが、逆に肥料を奪っているという、皮肉な話です。

ii.      ボカシ肥料:バランス肥料
ぬか、油粕、籾殻クンタンを中心に、骨粉、魚粉、カニガラ、牡蠣ガラなとも(あれば)入れて発酵させた、栄養に富む即効性肥料です。こちらは完全に発酵させると栄養成分が少なくなってしまいますので、途中まで発酵した段階で肥料として用います。材料をよく混ぜた上で少しずつ水を加えてさらに混ぜます。水の量は、混ぜたものを手で握ると固まり指でつつくと崩れる程度。水が多すぎると腐敗しますので、水加減を見ながら少しずつ加えてください。できあがったら味噌を作る要領で漬物オケなどにギュウギュウ詰めにして日陰に置いておきます。10日程で甘酸っぱい匂いがしてきたら利用可能です。天日干しして乾燥させると、発酵が止まるので、保存性は良くなります。元肥として、また即効性があるので追肥としても利用します。ただし、元肥として利用する際は、発酵にともなうガスの発生が野菜の生育を阻害することのないよう、苗植えまで日を置くなどの配慮をしなくてはなりません。

iii.    発酵液肥:窒素肥料
ボカシ肥料、油粕、鶏糞などを10倍の水に入れ、一ヶ月程置きます。ペットボトルや蓋つきのポリバケツに入れておくと良いでしょう。ただし、発酵してガスが出るので、ペットボトルの場合は栓は緩めておく必要があります。いわゆる野壺の匂いが強いので保存場所には注意が必要です。出来上がったら、1020倍に薄めて、葉もの野菜や、生育が遅れ気味の苗にジョウロでかけると、見違える程勢いがつきます。ただし、やり過ぎはメタボ野菜になるので禁物です。

b.      施肥効果のスピード
化学肥料は施肥後、土中水分に肥料成分が溶け出すと直ちに効果が現れる即効性がありますが、成分の吸収・流出に伴い短期間で効果が終わります。一方、有機肥料は、施肥後、土中微生物による分解・発酵というプロセスを経て植物の生育に有効な成分が産み出されるので、一般に遅効性で長期間効果が持続します。特に堆肥はこの傾向が強くなります。
有機肥料による栽培は、このような肥料効果の性質から、生育の後半に肥効が高まる「秋勝り型」になりがちです。特に越冬型の野菜で、冬場の微生物が不活性な時期に肥効を維持するためには、早めの施肥が必要になります。
野菜はその種類に応じて、肥料を最も必要とする時期が異なるので、遅行性の堆肥とより即効性のボカシ肥との割合を考えて施用することが、上手に育てるコツです。また、生育状態を見て追肥を行う場合には、速効効果のあるボカシ肥料や発酵液肥などを施用するのが基本です。

2.   ミミズ
土中微生物が増えると、それをエサとする土中生物も増えますが、中でも、微生物や腐植をエサとするミミズは、土の団粒化という、野菜生育に大きな役割を果たす生き物です。ミミズは、土を飲み込み体内で腐植や微生物の一部を消化吸収し、残りを土と一緒に排泄します。排泄物は、土の粒子と分解された有機物が粘液で固まってできた土団子です。土の粒子と粒子の間や有機物の間に多くの隙間を持つため、根の呼吸に必要な酸素を供給する能力が高いという特徴を持っています。ひとたび雨が降れば、この隙間に多量の水分を保持できるので、水はけが良くかつ保水性の高いという矛盾した性質を併せ持つ土壌でもあります。このように、ミミズは、野菜の生育にとって理想的な土壌を作るうえで、大変重要な活動をしてくれる生き物です。耕してミミズが出てきたら、有機栽培が順調に進んでいるという証拠でもあります。大切にしましょう。

II.無農薬栽培
1.      無農薬栽培の目的
害虫や病気を薬で解決するのではなく、病気や害虫に対抗できる丈夫な野菜作り、病気や害虫に対抗できる生育環境作りを目指します。

2.   農薬の弊害
a.      弊害その1
残留農薬による健康への影響が心配です。特に微量であっても生体や生態系に影響を与えると言われている環境ホルモンとして作用する物質も多いようです。

b.      弊害その2
人間用の薬と同じく農薬にも副作用がつきものです。病気を治す農薬が野菜を弱め、土壌微生物をも殺すため、別の病気や害虫被害をもたらします。また、殺虫剤は他の益虫をも殺します。農薬や殺虫剤は環境への影響が大変大きいと言えます。

3.   無農薬栽培の基本
a.      肥料のやり過ぎは禁物
窒素肥料のやり過ぎは野菜を軟弱にし、アブラムシやうどん粉病など、病害虫の原因となります。

b.   無農薬栽培に適した品種を選ぶ
近年、品種改良が進んで、見栄えのいい野菜、甘みの強い野菜を作る傾向が強くなっています。トマト、ニンジン、トウモロコシなどは特にその傾向が強くなっています。このような野菜は往々にして多肥を必要としますので、軟弱化して病害虫に弱くなります。多少食味は落ちても、在来の固定種や、無農薬栽培用に売られている品種を育てるのが基本です。昔ながらの野菜の味を楽しみましょう。

c.    栽培適期を守る
i.        いくら品種改良されていても、野菜はその原産地に似た時期に最もストレスなく良く育ちます。いわゆる旬です。ストレス無く育つということは丈夫に育つということなので、野菜を旬に育てることは無農薬栽培への近道です。種袋に書かれている蒔き時は広めに記載されていることが多いですが、それに惑わされず、適期に種を蒔く事が大切です。地元の農家と友達になるのが一番いいでしょう。

ii.      一年のうち、害虫が発生しやすい時期があります。例えばヨトウ虫の成虫であるヨトウガは、5月と9月に卵を産みます。この時、肥料が撒かれていると、肥料から出る有害ガスに集まって野菜の苗に卵を産んでしまいます。元肥は時期をずらして早めに撒いておくか、元肥を控えて時期が過ぎてから追肥するなど、害虫の生態を考慮して野菜を育てることが害虫被害を最小限に抑えることにつながります。

d.      輪作
輪作とは、畑を複数区画に分けて区画ごとに違う科の野菜を育て、毎年区画をずらすことで同じ区画に連続して同じ科の野菜を育てないようにする作付け法です。
同じ科の野菜を同じ場所に毎年育てると、特定の土中栄養素が欠乏する一方、野菜の出す老廃物が蓄積します。同じ科の野菜が育ちにくくなる連作障害はこれが原因と言われていいます。連作障害を防ぐために輪作を行います。
輪作は4または5区画に分けるのが基本です。特に、ジャガイモ、ナス、トマト、ピーマン、シシトウなどは全てナス科で、障害が収まるまで4年かかります。障害の程度も激しいので注意が必要です。また、エンドウなどの豆類も5年必要で、障害も激しく出ます。
連作障害は、野菜が吸収する微量元素が欠乏することによって生じるとも言われていますので、落葉で作った腐葉土や堆肥を施用するとある程度低減できるといわれています。

e.      多様な病害虫防御手段を使う
i.        害虫は手で取る! 害虫は見つけたら手で取るのが最も確実な防除法です。ジャガイモやナス、トマトの葉や若い実を食い荒らすテントウムシダマシ(ニジュウヤホシテントウ)は、放っておくと葉の裏に黄色い卵を産んでどんどん増えます。初期段階に手で取り除くのが防除のコツです。ブロッコリーやキャベツに出る夜盗虫や青虫も見つけ次第、取り除きます。葉の裏に卵が産み付けられていることがありますので、これも見つけ次第、すりつぶします。

ii.      コンパニオンプランツ
一緒に育てることで、野菜が丈夫に育つ植物、害虫が寄り付きにくい植物をコンパニオンプランツと言います。キュウリなどウリ類をネギと一緒に育てると蔓割れ病になりにくくなります。これは、ネギの根から出る物質が蔓割れ病を防ぐことによると言われています。トマトとバジル、ナス科植物とニラもよく知られたコンパニオンプランツです。混植することによって、お互いの成長が良くなります。また、青虫の成虫であるモンシロチョウはニラやレタスの匂いを嫌うので、キャベツやブロッコリーと混植すると効果が上がります。

iii.    バンカープランツ
畑の縁や隣の畝に育てることで、害虫が飛んでくるのを防いだり、害虫の好む汁でトラップする、あるいは益虫の棲み家となる植物をバンカープランツと言います。

iv.     益虫の棲み家
クモやてんとう虫、ハチの棲み家となる雑草や敷き草を適度に維持する。ただし「適度に維持する」というのは以外と難しくて、すぐ草だらけになります。雑草に負けやすいネギや、種を植えたばかりの区画は要注意です。

v.       ネットやべたがけ資材
野菜に虫が付かないように、ネットや不織布などのべたがけ資材を用いて、物理的に害虫をブロックします。ただし土中から這い出してくるネキリムシやヨトウムシがいる場合は効果がありません。また、害虫がいるのを見つけて鳥や益虫などの天敵が寄ってくるので、ネットやべたがけ資材は、このような天敵をも排除する点には注意が必要です。

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